第三次世界大戦

出張

昨日の事だ。

「カーソン君」
上司の声が、俺を呼んだ。
上司の声は嫌いだ。ガラガラ声だってこともあるが、一番はもう1つ。
上司が俺を呼ぶとき、ほとんどが悪い知らせだからだ。
それでもやはり、まだまだ働き盛りの俺は、仕事をやめるわけにも行かないわけで。
「はい?」

まず、上司は悪い知らせの場合、娘の話をする。
「いくつになったんだい、娘さん」
次に、上司は謝罪の言葉を述べる。
「本当に急で申し訳ないのだが・・・」
そして、上司は申し訳なさそうな顔で少し間を空ける。
「本社の会議に出席してくれないか?」

あぁ、もう。なんだよ。ここまで常に同じ動きをする人間もいないと思うね。

「実は、出席する者が資料を忘れてね。届けてもらいたい」
それぐらい新入社員でいいんじゃないか。俺はもう10年になるんだ。
第一に、明日は最愛の娘、スザンナの7歳の誕生日。
まだ、父親に対する反抗心っていうやつが芽生えていないようで、俺が帰れば、まぶしい笑顔で出迎えてくれる。
いつ反抗期というものが来るか分からない。今のうちにその笑顔を拝んでおきたい。

「届けたら、是非会議に出席して欲しい。本当は新入社員にでも行かせるところなんだが、そろそろ君も会議やなんかを経験するべきだと思って」
出世のチャンスって言うのは、なんでこう突然なんだ。
何らかの前兆…っていうか何かしらあってもいいんじゃないか?
でも、俺は、断れないんだよな…。
「ワカリマシタ」
自分のそういう性格が長所であり、短所であることはよく理解しているつもりだ。
まるで日本人のようだ、と何度も言われてきた。

結局そのまま帰宅。
妻や娘に、誕生日は無理そうだ、と伝えたときの事は思い出したくないね。

そんなわけで、俺はは自宅・職場のある州から3つも州の離れた本社に来ている。
「はぁ・・・・・・」
会議まではしばし、時間の余裕があった。
ロビーの自販機で買ったブラックコーヒーの深い苦味を味わいつつ、俺はため息をついた。
そこで思いつく。
あぁ、有給使えばよかった。
何で俺はこんなんなんだ。日本人の血が流れているんじゃないか?家系を帰ったら確認してやる。
それで問題が解決するわけもないけど。

さて、と。
新婚の時、妻からもらったブランド物の腕時計を見つめる。
そういえば、もらったとき、出世を願われたんだっけ。
あと15分、か…。とりあえず会議が午前中開始なのは嬉しいな。
午後も続くが、頑張れば日帰りもできる…と願う。

コーヒーを飲み干し、空になった缶を捨てようと腰を上げる。
缶を捨て、資料の詰まった鞄を手に取り、会議室へと向かう。
忘れやがった野郎には、少しばかり何か言ってやりたい。先輩だから何も言えないけど…。




刻々と迫る会議開始時刻。
運命の時間まで、あと1時間