歌

〜 音階にのせて 〜
》集団自殺しませんか?

集団自殺しませんか?
仕事や勉強、家事に育児…疲れてしまった皆さん、私と共に死にましょう。
何人でもいいです、私一人では心細いので、是非一緒に。
都合のいい日を教えてください。あ、死ぬのに都合なんていらないですよね。
でも一応、大人数になると思うので、名前だけでも把握したいです。
メールを送ってくださると助かります。

それから、死ぬ気の無い皆さん。
これから自殺する人を見届けませんか。
彼らの(私を含め)勇姿、その目に焼き付けてください。
それと、私達の願いをあなた方に伝えていただきたいので。
開催日はまたこのスレ内でお伝えします。
少しでも多くの方に来ていただきたいです。
……




「何、コレ…」
柚実は死ぬ気のない人間まで誘う意味が分からず、少し恐怖を覚えた。

「この人、きっと本気なんだ」
「…え?」
茉莉のいまいち掴めない言動に、柚実は戸惑う。

「この人本気なんだよ。本気で死にたいの。だから、見届け人つけて、絶対に逃げないつもりなんだよ。凄いね、こんな人、居るんだ…」 そうか、と柚実は思った。
今までのものとの違いは、死ぬ気の差なのだ。
スレッド主は、本気で死にたがっている、本気でこの世を去ろうとしているのだ。

「これ、行ってみない・・・?」
茉莉が呟く。本当に小さな呟きで、柚実は危うく聞き逃すところだった。
「いや…でも…」
柚実は正直気が乗らなかった。
人の死、というのは柚実にとって未知の体験だ。
人が死ぬのを見るのは、ドラマや映画などのフィクションだけだ。
それでさえ怖い。きっと現実はもっともっと怖い筈だ。
「…そう。ならあたし一人で行く」
「…うそ…冗談きついよ茉莉!何でそう簡単に行こうとか言えるの?人が死ぬのって怖…」
「分かってるよ!そんなこと…そんなこと柚実の何倍も何十倍も、何百倍も知ってるよ!」
そこで柚実はハッとした。そうだ、この目の前の同年齢の少女は一年前…
茉莉は続ける。
「人が死ぬのは怖い事だよ。それが見ず知らずの人でもね。でも、自分から逝くんだよ?あたし達が感じるよりずっとずっと怖い事しようとしてるの。だから、見届けてあげたいの」
「……ごめん。ごめん茉莉。そう、だよね…この人たちは、もっと怖いんだよね…でも…ごめんね?あたし、やっぱり…怖い。これには、行けない」
「…うん、大丈夫。いいんだよ、あたしも言いすぎた。怖いよね、普通。でも、あたしあの日から、普通じゃないからさ。…大丈夫、一人で行くから」


五日後、柚実は、一人で行かせた事を後悔する。