歌

〜 音階にのせて 〜
二日後、午後3時。

指定された場所は、案外遠いところにある田舎町だった。
開始時刻は6時。
あちらに着く予定時間は5時半。

「ふぅ。やっときたね、この日が」
待ち遠しかった遠足を喜ぶように、茉莉がいった。
柚実は、そうだね、と返したものの、不安でいっぱいだった。
電車やバスに揺られている間、その不安が消えていくのが分かった。
公共交通機関に乗車している所為だろうか。
いつもの、ちょっと遠出の遊びに思えた。

プシューっと、空気が一気に抜ける音と共に、バスの戸が開いた。
地面に足を落とす。
同じアスファルトでできている道路だが、足の感触が微妙に違った。
いよいよな気がしてきて、柚実の中に恐怖が生まれた。
「やっぱさ…帰らない…?」
柚実指先が小刻みに震えている。
どうして、とでも言うように首をかしげた茉莉。
「今更?」

怖かった。怖かった。
怖い。怖い。怖い。彼女が怖い。
見慣れた友人の顔が、一番怖かった。
「死んだらどうするの」
「そんな人なんていないよ」
「違う」
「何が」
「あたし、達が」
「……」
「あたし達が死んだら…どうするの」
そこで会話が終わった。
茉莉は少し間をおいて、歩き出した。
「大丈夫」という声と共に。


付いていくことしかできない自分が情けなかった。