ついていく。ただ、ついていく。
茉莉の足は止まらない。止まらない。
気がつけば、山道になり。
太陽が別れを告げようと、傾き始めたとき、
「ついた」
か細い声が告げた。息が荒い。
それまで伏せていた顔を上げると、目の前には橋。
橋の上に群がる、人、人、人。
ざわめく群集。
同世代の男女が1つの橋に集まっている。
異様としか言えない光景。狂った人々。
茉莉もそのひとり。
時刻は午後5時58分。
柚実の腕時計が、カチカチと迫り来る時間を示す。
59分。
茉莉と柚実の後ろに、黒いTシャツに黒いズボンをはいた男が現れる。
見た目は20代前半、と言ったところ。
男の後ろには、スーツを身にまとった、メガネの女も立っている。
柚実は少し、ゾッとした。
午後6時。
男がスーッと息を吸って、
「やぁ皆さん!始めまぁして!演奏会へ、ようこそぉ!」
いかにも演奏会の始まりのように、笑顔で告げた。
一瞬にして、群集のざわめきが消える。
男は手をパンパン、と叩いた。
「さーて!演奏会のぉ始まり、始まりー!」
子供のような、でもどこか作ったような、そんな笑顔だった。
また、男が動く。
男は右手を高らかと上げて、叫ぶ。
「とりあえず、死にたい人、こっちにしゅーごーぅ!」
つくづく幼稚なことをする男だ。
しかし、その言葉で、群集に流れが生まれる。
男の下へ向かう小さな、細い流れ。
そして、その流れを避け、まるで勇者を見るような目で、小さな流れを見つめる、大きな流れ。
男へ向かう小さな流れ、男から離れる大きな流れ。
無論、茉莉と柚実は大きな流れに合流した。
男は小さな流れの人数を確認し、一言。
「この6人でいいのかなぁ?思ったよりも少ないけどぉ…まぁいいか。香坂、あっちの人たちは頼んだよ」
香坂と呼ばれたスーツの女は、了解、と一言、携帯を取り出し、何やら電話を始めた。
また、男は手を叩いた。
「さーて。ここからがぁ、本番でーすっ!っと、ひとつ、後ろの人に、お願いね!」
男は笑顔を捨て、人差し指を立てて口元にあててこういった。
「後ろの方ぁ。無言で、お願いしますねぇ?」