第三次世界大戦

喧嘩

そうだ、アイツに出会ったのは3年前。
3年前、俺の高校に転校生が来た。
国籍はロシア。名をシードル・ステパノヴィチ・レピャフカ。
ロシア人の名前は覚えづらかった。
俺はとりあえず、シードルと名前で呼ぶ事にした。

出会って、少し話すようになった。
ロシア人、と言っても、この地域はロシア人が結構居た。
よって、人種差別なんてなかった。
シードルは、気さくな奴で、正直今までの俺の友達より、断然シードルの方が楽しかった。
奴とは2年間高校生活を共にし、違った道を歩んだが、連絡だけは途絶えなかった。
週に1度は会ったような気がする。
シードルが進んだ私立大の話、俺が進んだ国立大の話、彼女ができたとか、ペットが死んだ、とか。
会話はたいした話ではなかったが、奴とコーヒーを飲みながら話している時間は楽しかった。
いつものインスタントコーヒーも、シードルと飲むと、不思議とうまかった。
奴がブラックで飲み、俺は砂糖やミルクを入れる。
入れすぎだよ、なんて言われて、大笑いしたり。

喧嘩だってもちろんしたさ。
さっきのコーヒーだって、最初に飲んだときは、僕の前でそんな入れ方やめてくれ、とか言ってきて、こちらもカチンと来たから喧嘩になった。
でも、次の日には自然と打ち解けていた。

が、今回は違った。
咄嗟に言った一言が、始まりだった。

なんだっけな、確か映画だったか本だったか。
とにかく、ロシアに関するものを見た感想を言ったときかな。

「なかなか面白かったよ。ロシアが酷く恐ろしかったがな。実際はどうなんだ?」
その本(記憶は曖昧だから仮に本としよう)は、ロシア人が書いた物ではない為か、ロシアの描写が恐ろしかった。
「とりあえず、アメリカよりは恐ろしくないよ」
「どういう意味だ」
「アメリカってすぐ戦争とか始めちゃうじゃない。武力で解決する国以外に恐ろしいもの、あるのかい?」

国、というのは不思議なものだ。
普段、あまり意識しない、国。
だが、外国人と接すると、祖国愛というか、そういう何かが、生まれる気がする。
自国を貶されると、まるで自分を貶されている気分になる。
シードルの発言は、実に不愉快だ。

「武力解決?そんな事していない。まぁイラク戦争とかを言ってたりするんだろうが、もうそのときとは大統領は変わった。変わったんだよ、アメリカは」
「そうかい?でも僕から見たら武力解決だ。そして、それは今だろう?アメリカは過去を振り返らないのかい。酷い国だね」
「そこまで言うなら、言わせてもらうぞ。ロシアは酷い国だ」
「何を根拠に?」
「ロシアは日本の領土である千島列島を占領した。日本はもう、降伏していたはずだ」
「あれ、アメリカの地図では、ロシア領表記のはずじゃない?それに、それはソ連の話」
「俺はあそこは日本領だと思うけどな。ソ連だって結局ロシアも含まれてんだろ」

お互い、知ってるだけの知識で闘った。
だが、俺は思い出す。あぁ、世界史は苦手だ。
あいつは世界史は凄かった。
ぽんぽんアメリカを貶す言葉が出てきる。奴の口を、テレビ周辺に転がっているガムテープで塞ぎたかった。
俺がだんまりを続けていると、奴は勝ち誇った顔で帰っていった。
たぶん、俺が銃を所持していたら、一発かましただろう背中。憎たらしい。

翌日、俺は近所のアメリカ人達に、以上を話した。
恐らく、シードルも。
それを機に、俺の町で、アメリカ人対ロシア人の抗争が始まる。
俺にも奴にも、それを止める術なんて思いつかなかったし、止める気だってさらさらない。




運命の時間まで、あと1時間